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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1389号 判決 1949年12月16日

被告人

橫井勇一

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人梅山実明、大池龍夫の控訴趣意第二点について。

原審公判(第一回)調書によれば立会検察官において被告人等の司法警察員に対する各供述調書並に検察官に対する各弁解録取書及び供述調書の各取調を請求し……裁判官はこれを採用して取調べると決定を宣し検察官にその朗読を促し、検察官は右取調請求の書類を順次朗読した上裁判官に提出した旨記載してある。然るに被告人西口音次郞、岩森辰雄、山田岩雄等の右各供述等調書は提出されて本件記録中に存するが被告人橫井勇一の分については司法警察員に対する供述調書が提出されてあるのみで、その検察官に対する弁解録取書及供述調書は本件記録中に存しないことは所論の通りである。従つて同被告人の右検察官に対する所論の調書について果して証拠調が行われたか否かを検討するに、右公判調書には前敍の如く単に「被告人等の司法警察員に対する各供述調書並に検察官に対する各弁解録取書及び供述調書」というように記載してあるだけであつて、かかる記載方法は事の精確を期する上において適切ではなく稍もすれば誤記を免れず明確を欠くものというべく、従つてこれによつて直ちに被告人等全部の右各供述等調書につき取調が請求されその取調があつたものと断じ難く、而して刑事訴訟法第三百十条は証拠調を終つた証拠書類又は証拠物は遅滞なくこれを裁判所に提出すべきことを命じており、現に右公判調書には検察官は取調請求の書類を順次朗読した上裁判官に提出した旨明記されていることは前敍の如くであるから右所論調書についても真に証拠調が行われたものとすれば特段の事情がない限り検察官より提出されて本件記録中に存すべき筈であつて、若し所論の如き事情によつて提出を欲しないものであれば初めから取調を請求すべきではなく、取調を求めてその取調がなされた以上これを提出しないというが如きは普通あり得ざることといわねばならぬ。右これらの点を照合して考察すれば前記証拠調に関する公判調書記載の被告人等の各供述等調書中には右被告人橫井勇一の所論調書はこれを含まず、結局同調書については取調の請求がなくその取調が行われなかつたものと観るを至当なりとすべく、この点に関する論旨も理由ないものとする。

(弁護人梅山実明、大池龍夫の控訴趣意第二点)

原審公判調書ヲ精査スルト立会検察官ハ証拠ニ依リ証明スヘキ事実トシテ第二強盜未遂ノ点ニ付キテハ一、……二……三……四……五……六被告人等ノ司法警察員ニ対スル各供述調書、検察官ニ対スル各弁解録取書及ヒ供述調書ノ各取調ヲ請求シ裁判官ハ其任意性ヲ確メタル後夫々之ヲ採用シタル旨記載アリ、然ルニ被告人橫井ノ弁解録取書及ヒ供述調書ハ本件記録ニ編綴シテナク右ハ畢竟被告人橫井ニ有利ナル弁解並ニ供述ガ録取サレアル為メ故ラニ其編綴ヲ避ケタルモノニ外ナラサルガ之ヲ要スルニ原審公判調書ニ依レバ証拠調ヲ為サレタルモノカ記録ニ編綴サレ居ラサル一事ニ依リ証拠調カ果シテ適正公明ニ履践サレタルモノナルヤ否ヤ疑義存スル次第ニシテ斯カル場合ハ所謂訴訟手続ニ違背アリト結論シ得ルモノト思料ス。

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